シイノキハウス-U邸新築工事
逗子市は小坪漁港を見下ろす小高い丘の上、10メートルはあろうかという大きなしいの木に寄り添うように完成したU邸「シイノキハウス」。光や風、風景、ローケーションを最大限に活かすプランと心地よい素材感に囲まれたお住いです。
お施主さんが見つけた「宝物」
工事にあたっては7月の初夏から年明けの1月まで足掛け半年以上現地に通いました。季節の変化を十分に体験する中、この場所には「宝物」と呼べるほどのものがあるなと感じました。それは風や陽光、風景、そして堂々と栄えるしいのきといったロケーションそのものです。
お施主さんはこの場所を見た瞬間に「ここに住みたい!」と感じたそうですが、その直感はまさにこの「宝物」に通じていたのではないかと思います。
南北に風の抜ける道があり、高さがあるせいか、風の塩気も随分と軽いものになっている。西側には小坪漁港の鎮守の森ともいえる神社があり、強い西日と海からの強い風ををうまく遮ってくれる。などなど、長い時間を過ごしてみると合点がゆくのですが、心地よく過ごすためのお膳立てが本当によく揃っているのです。
ミニマムなサイズを最大限の空間に活かす。
建物の延床は約27坪と数字で見ると大きくはありませんが、家のどこにいてものびのびとした居心地になるようにプランをねりました。廊下を作らない、収納をまとめる、建具を活かす、バルコニーの広さを取り入れるなどなど、工夫やアイデアを組み合わせて空間を最大限に活かせるようになっています。出来上がれば非常にシンプルな間取りですが、一コマでも無駄なスペースができないように、まるでパズルのようにいくつもバリエーションを組み合わせて検討しました。
収納や階段、キッチンといった人の動きがある部分は広さに限りがある中、細かい造り込みをせずに、広く大きな作りとし、使い心地もゆったりとしたものになっています。
敷地に余裕がある中建物をミニマムに作ることで、さらに場所の持つ魅力が活きてきました。
「2階の薪ストーブで家全体を暖める」という課題
「薪ストーブをガンガン使いたい」というのは、家づくりのテーマのひとつでした。薪ストーブ自体は完成から翌冬の導入ということでずれ込んだのですが、床の補強や薪置き場の想定など薪ストーブを迎えるための準備は計画時から検討が必要でした。
一番の課題は薪ストーブの設置場所を1階にするか、2階にするかということ。薪ストーブの暖気を最大限活かすなら1階に設置して、階段を通して2階まで暖めるのが良い。薪ストーブの揺らめく火を眺めながらくつろぎたい、身近な場所で手軽に使いたいということであれば、キッチンやリビングなど生活の中心がある2階に設置が良い。プランを練る中でも、何度か1階と2階を行ったり来たりして悩むことになりました。そしてたどり着いたのが、「2階に設置して家全体を暖めよう」という欲張りな計画です。
2階の天井の一番高い部分から暖気を吸い込んで、1階の床下に送り込むというサーキュレーションを換気扇を使って行えるようにしました。薪ストーブの暖気は2階の勾配天井を登って、パネルに隠れた吸込口から換気扇を通って一気に一階の床下へ、そして各部屋の床に設けられた吹き出し口から室内に上がってくるという流れです。暖かくなる立ち上がりに時間がかかりそうではありますが、1階の床にはちょっとした床暖効果もあるのではないかと期待しています。
その効果を実感するのに薪ストーブの導入を待っているところですが、とても楽しみです。後日追って報告いたします。